本気のマンガ術


本気のマンガ術―山本貴嗣の謹画信念

本気のマンガ術 -山本貴嗣の謹画信念-  (出版社: 美術出版社)

著者  山本貴嗣 先生       共著  唐沢 よしこ

 

今回の本は どちらかというと アクション系の作画技術がメインになっています
著者は 格闘&ガンアクション漫画で定評のある 山本貴嗣 先生
これも快描教室と同じく コミッカーズで連載されていたものを まとめた一冊です

元々は 山本貴嗣 先生がアシスタントさん向けに作った アシスタントマニュアル
美術出版社の編集さんが それを元に漫画家志望者向けにしたものを
連載して欲しいという要望から始まったコミッカーズの作画講座だそうで

コミッカーズ連載時も非常に人気のコーナーだったと思うのですが
山本貴嗣 先生 当時から どちらかというと厳しめの
コメントをされる先生だったので 人によっては読んで
凹む人も いるかもしれないです (^^;

後々になって 先生自身のホームページで 当時は若気の至りで
ちょっと厳しく書きすぎたかも 的なコメントが書かれていたりしますが
そうは言っても 言っている内容は まったくその通り という他ないことばかりで
漫画家になった後の厳しさを考えれば それらの言葉は逆に親切とすら言えます(・`ω´・)

 

 

と 前置きが ちょと長くなりました この「本気のマンガ術」10年以上前の本なのですが
実は当時 初心者向けに 本格的な ガン・アクション格闘技 剣技などを
漫画で描く際のテクニックを基礎から解説した本は ほとんど無く
しかも 作者本人のノウハウを 惜しげも無く書いてあるという貴重な一冊で

以前 希有馬(井上純一)先生が「パースに関してはコレを金科玉条にしてた」と
コメントされてたので プロの漫画家でも この本を参考にされた方
結構多いのではないでしょうか

 

 

で その内容なのですが 一応最初の方は ペンの線の引き方から
ベタ ホワイト カケアミ等の基本的な部分を説明していますが

前半の基本テクニック編から スピード感のある画面作りや 光源の変化による人物の影の表現
さらに 補助光による影のバリエーションやライティングによる演出など
いきなり中級~上級者向けの内容になってます

そして 一番の注目点は 最初の方にも書いてある通り
ガン・アクション 剣技 格闘を漫画で描く際の迫力のある構図テクニック
アクションシーンでの やりがちな失敗と対策の研究など
かなり本格的な解説がなされている点なのですが

ぶっちゃけ これ 初心者向けに わかりやすく書いてあるとはいえ
すでに そうとう漫画が描ける人でなくては
仮に理解したとしても 全然応用できないんではないか?
というか どっちかというと プロになる寸前 もしくはなりたての人
向けなのでは・・・と ちょと思ってしまうくらい本格的な内容の本です

 

特に やりがちな失敗のコーナーでは アクションシーンなのに
アクションシーンから逃げてる例など
普通に連載漫画でも たまーにですが あーーーーあるあるという(=w=;)
漫画家さんによっては これを見ただけで 凹みそうな
困った例が幾つか上げてあります ギャグマンガはともかく
アクション漫画を描きたいという人は やってしまいがちな例なので
気をつけましょう  ・・・いやホント  ◯| ̄|_

 

中盤から後半にかけては 格闘&GUN&刀剣アクションがメインに書かれてます
格闘技もですが 剣術も剣の種類や流派によって 全然動きが違う というか
まず剣と刀の違い そして剣の持ち方 さらに殺陣についての例など

結構 リアルめな剣技アクションを描いてるプロの漫画家さんでも
ここまで本格的な考証を元に 描けてる人 どんだけいるかな・・・
というレベルの説明がなされてます   <(-_-;)>

 

ガン・アクションについても 銃の基本的な種類 構造やその表現
射撃姿勢など 最低限おさえておくべき点が
分かりやすく解説されてます 特に銃に撃たれて吹っ飛ぶ描写は
実は基本的には嘘という 目からウロコな内容や 逆に
場合によっては それに近いことも ありうるという説も解説されており

リアルなガン・アクション表現で これやっちゃダメ もしくは
銃を扱うプロは絶対にやらない例なども満載で
これ読んじゃうと 半端なガン・アクションを描いた漫画が
読めなくなっちゃうのでは という気すらします(((;゚д゚ )))
剣技 格闘 ガン・アクション いずれもホントに基礎的な部分をかなり
まとめて解説してるので ここに書かれてることを
気にかけて作品を描くだけで かなり違ってくると思います

もちろん どの程度のリアルさを要求するかによって
どのような表現を選ぶかは その作家さん次第なので
結局 その演出の違いが その作品の方向性を決めるわけですが

 

 

そして後半には パースについて 一点透視 二点透視 三点透視の
解説がなされているのですが この解説も
パースのついた背景に人物が居る前提の説明になっていて
よくある 背景のみのパースの解説よりも より分かりやすく
実践的なものになっています

 

さらに特筆すべきは 映画の画面づくりのように 背景を
広角レンズ 標準レンズ 望遠レンズで 描いた時の
見え方の違いと その効果を説明してる部分です

手前のキャラとのレンズの組み合わせの違いによる失敗例や
さらにレンズの効果を いかに演出に活かすか などが
丁寧に解説されています と言っても あくまでパースガチガチに
描くべき ということではなく 基本を知って そのうえで
パースの嘘やデフォルメを描かなくては効果があがらないという
基本理念も語られています

当時はもちろん 今でも こういった レンズによる演出等を
ちゃんと解説してる指南書は少ないので リアルめな
アクション漫画を描きたい!という人は是非 参考にしてほしいです

 

 

この「本気のマンガ術」どうしても作画技術的な部分ばかりが
クローズアップされがちですが 本の導入部漫画の

「マンガの技術は『入試問題』ではありません
これ以下は絶対OKとか絶対不合格とか そんな基準はないのです」

「細かく写実的に描くほどすばらしいということではありません
大切なのはいかにポイントを押さえるかです」

「ただ自由になにかを描きたいとき
いくらあっても困らないのが 作画技術なのです」

という作者の言葉から分かるように本当に漫画が好きで
漫画を本気で描きたいという人のためのテクニック本です

 

 

最後に あとがきで作者自身も以前に漫画の中で考証のミスをしてしまった例などを書いてあって
(といっても ある程度のマニアでないと まず気がつかないレベルのミス)
作品創りの リアルな考証の難しさが語られています と 同時に

参考資料や考証の 枝葉末節にこだわるあまり 肝心の漫画の面白さが忘れられてしまう
ことがあるので 時にはあえて(考証的な意味で)「嘘」を描くこと
それらを知った うえでの演出の必要性など これまた結構ハイレベルな内容が書かれています

そして 昔の人の曰く
書いてあることを すべて信じるくらいなら 本など一冊も読まないほうがまし
という 言葉を巻末に あげていて
最終的には この本に書いてあることすら鵜呑みにせず 自分で探して答えを見つけることの
重要性と 漫画を描き続けること=生涯学習 であるという
漫画を描くうえでの 基本の大切さを 再確認させられる一冊です

 

あとオマケといっては 何なのですが フランスのBD(バンド・デシネ)
の第一人者 エンキ・ビラル氏と山本貴嗣先生の対談も載っています
エンキ・ビラル氏ファンの人は二度美味しいです

 

ちなみに この本では 基本 技術面をメインに書かれているのですが
(実際は 漫画を描くうえでの精神的な部分もところどころ 挟んで書いてあります)
山本貴嗣 先生自身の ホームページや ツイートでは わりと
精神的な部分 というか哲学的な コメントが多く見受けられるので
(何か特定の宗教の話とかではないです 念のため)
そっちに興味がある人 もしくは猫好きな人(笑)は 一度覗いてみるのも一興かも

 

 

著者紹介

山本貴嗣(やまもと あつじ )先生  山口県防府市出身

代表作『最終教師』『エルフ・17』『セイバーキャッツ』『西遊少女隊』『Mr.ボーイ』『弾』
馳星周 先生の小説原作の『不夜城』など
ゲーム『メタルマックス』(データイースト)シリーズのゲームの
キャラクターデザイン&漫画版も手がける

(個人的にですが 不夜城の漫画版は原作ファンの方にもオススメ 好みはあると思うけど
原作小説 映画版 漫画版と どれもが 完成度が高いという 珍しい例)

 

唐沢よしこ  (おおめしPINK)氏

アスキー関連の雑誌などで活躍されてるフリーのライター
著書に『なをき・よしこのパソコン夫婦(めおと)バンザイ』
『オトナでよかった!』(エンターブレイン) (共著: 唐沢なをき 先生)
ネットで『モニ太のデジタル辞典』(ヨミウリオンライン)などがあります

ちなみに旦那さんは漫画家 唐沢なをき 先生

 

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